店は正午から開店なのだが、開店前の下準備のため、10時には店に入っていた。まず、することは、料理に使う野菜などの下ごしらえだ。ランチなどに添えるためのキャベツの千切りをボール一杯になるほどに作って水に浸しておく。様々な料理に使うための、タマネギやピーマン、白菜などは短冊に切ってかごにいれておく。そのかこはガス台の周囲に並べておく。人参は、短冊や、糸切りにしたあと、茹でてから水にさらした後、水のはいった缶に浸けておく。缶詰の水煮タケノコも短冊に切ってからさっと湯にくぐらせてから水に浸しておく。ラーメンのスープをつくるために、まず豚骨を沸騰したお湯で軽くゆがいてから、流水できれいに汚れを洗い流す。きれいになった豚骨をお湯をわかした大きなずん胴鍋の中に静かに投入してゆく。さらにその上に、鶏ガラを3〜4羽分ほど、そのまま静かに入れてゆく。あとは、スープとなる湯が沸騰しないように、ぶくぶくと下から時折あぶくが沸き上がってくるくらいの温度に保つように注意していく。下ごしらえの時に出た、野菜のくずや、野菜の外革などは、そのスープの中に放り込んでおく。卵の殻もスープ表面の灰汁取りのためにやはり投げ込んでおいた。餃子の餡をつくるために、大量のキャベツを芯まですべて切り刻んではミキサーの中に水と一緒にいれて十分に撹拌し、布袋の中にそれを開けてから、体重をかけて水を絞り出す。そうしてからからになったキャベツのみじん切りはボールの中に開けておく。こうした下ごしらえをしている傍らでは、先輩の桂ちゃんがお店を穿いては、雑巾がけをしたり、さまざまな食器を整えたり、調味料の過不足を調整したり、割り箸を足したり、いろいろな雑用をしていた。桂ちゃんはわたしよりは4〜5歳ぐらい年上で、ボーイッシュなとても短い髪型をして、口数のすくない、色白な女性だった。わたしたちがこうして開店前準備を進めていると、やがて11時すぎぐらいに、チーフと呼ばれていた市田店長が出勤して来た。チーフは、京都の私立大学に在学中、中華料理店でバイトしていたらしいのだが、終いには、本末転倒、バイトの方が本業になり、大学は中退して、その中華料理店に就職してしまったらしい。そして、めきめき腕を上げ、チェーン店の一つを任されるほどになったところを、当地の社長に注目され、引き抜かれて、この金沢で、この『眠眠』の店長になることになったらしい。 チーフは出勤してくると、わたしが準備していたキャベツのミジン切りを使って、さらにさまざまな材料や調味料を使って餃子の餡をつくり、その餡を既製品の皮で、わたしと二人で、開店までに100個ぐらい包むのだった。餃子の餡はだいたい二日分ほどあったので、次の日にはわたしひとりで100個ほど包んだ。
こうしてすべての準備がすんでからいよいよ開店、内側に入れていたのれんを店の外に出すと、12時かっきりに、さあ、いらっしゃい!