2009年11月5日木曜日

腫れた目とアポロ11号

 チーフの市田さんの奥さんという人は、とても若く、二十歳そこそこの、可愛い人だった。チーフが、当時、おそらく33~35歳ぐらいだったろうから、一回り以上、歳が離れていることになる。わが「眠眠」のオーナーは、別に、キャバレーも経営しており、(その他に、スーパーも1軒)彼女はそこのホステスであった。どういういきさつで二人が知り合ったのかはわからないが、キャバレーの終わったあとに、同僚のホステス2、3人と連れだって、「眠眠」に立ち寄ることがあった。最初は彼女がチーフの奥さんだとは知らずに、ただ二人が仲いいなあぐらいに思ってたんだが、ある時、そう、犀川に鮎が上り始めて鮎漁が解禁になったころ、彼女が片目のすみを大きく腫らして、まるでお岩さんのような姿で店に現れたことがあった。私はびっくりして、でもその訳を聞くのも気が引けて、見ていると、彼女がキャバレーのお客さんから時計をプレゼントされて、そのことに激怒したチーフが、激しく彼女を殴打したものらしい。そして、その時、初めて二人が夫婦だと知り、二重に驚いたのを憶えている。そして、それから何日も経たないうちに、アポロ11号は月へと旅立ち、アームストロング船長は月面に人類にとって偉大な一歩を印したのだが、そのころには、彼女の目のまわりの腫れもすっかりひいて、二人は閉店後の「眠眠」のカウンター越しに仲のいいところを、私に見せつけるのだった。